Ghosts and Childhood and・・・
26日wowwowで「Ghosts」が放送されますね。
これはわたし的には悲願のSFだったので、とても楽しみ。
Youtubeでも日本語字幕をつけてUPしてくださっている方がいて観る事はできていましたが、あのスリラーを大きく凌ぐ(とわたしは思っていて)、複雑で、かつそれまでのダンスムーブとは一線を画した独特な振り付けの群舞、俳優としてのマイケルの怪しげで神秘的なマエストロ役の演技、(特に彼の表情には息を呑む凄みさえあります)、そして一人5役という徹底したこだわりなど、見所が沢山ある映画です。
どうしてもこれを大きな画面で観たかったので、本当に嬉しい。
現在DVD化がされていませんし、VHSでは恐ろしい高値で取引されていますしね。
これが出たとき、たいした金額ではなかったのにすぐに手に入れずに暢気に構えていた自分をどれだけ呪ったことかw
このSFのアイデアは、当時「HISTORY IN THE MIX」と呼ばれ、後に「Blood On The Dance Floor」という変則的なリミックスアルバムに収録された「Is This Scary」、これがもともとは映画アダムス・ファミリー2のサウンドトラックになるはずだったのですが、契約問題で折り合いがつかずこのお話は流れてしまいました。
でもそれがきっかけとなって、「では自分たちでこれをモチーフにしたSFを創ろう」ということになって生まれたものでした。
「マイケル・ジャクソン全記録」の著者でもあるエイドリアン・グラントの「Adrian Grant's MAKING HIStory
」(HIStory発売に合わせて作られたマイケルのインタビュー本)で、マイケルがこのことについて語っています。
It started with the Addam's Family, they wanted a theme song (Is It Scary) for their films and I didn't want to do it. So eventually we got out of it. So I ended up making a short film. I love films, I love movies, and that's why my next mission is to make films. That's what I want the next chapter in my life to be - movies and records. There's no other place to go. I'll do films, do records and direct. I'll also do complete directing myself, 'cause I love it very much.
それは 「アダムス・ファミリー」から始まったんだ。
彼ら(パナマウント社)は、「アダムス・ファミリー」 のフィルムに "Is It Scary" をテーマソングしたがっていたんだ。でも、僕はそうしたくは無かった。だから結局、僕たちはそれを外した。 そして最終的にはショート・フィルムを創ることにしたんだよ。
僕はフィルムが大好きだし、映画も好きだし、だから僕の次の仕事はフィルムを創ることだね。 僕は人生の次の章では、映画やレコード創りがしたい。他に行く所は無いよ。
フィルムを創る・レコードを創る・指導する。僕は自分自身で全てを監督したものも創るつもりだよ。そうする事が大好きだからね。
参考サイト:Legend Of MOONWALK

この40分にわたる 堂々としたもはやミュージックビデオの枠を超えたSFでは「2 BAD」「GHOST」「IS IT SCARY」の3曲をフィーチャーし、エンターテイメントあふれる中に、実はとても重要なメッセージが込められています。
モダンホラーの巨匠、スティーヴン・キングとマイケルの共同脚本。
監督は、「ターミネーター2」「ジュラシック・パーク」などさまざまなSFX映画でアカデミー視覚効果賞を受賞している特殊メイクのこれまた巨匠であるスタン・ウィンストンでした。
このSFはカンヌ国際映画祭にも出品されました。

カンヌでのマイケル
日本でも96年のHIStory tourで来日した際、ファンと一緒に観たいというマイケルのたっての願いが実現し、200人の幸運なファンとの上映会に彼は出席しています。
同じ劇場内で一緒に映画を見ることができた幸せなファンの方には最高の思い出の映画となったのでしょうね。
マイケルは2001年のチャットインタビューで、スティーブン・キングとこの原案を一緒に作る過程の話をしてくれています。
Well, I let the song pretty much speak to me and I get in a room and I pretty much start making notes... You know, I'll speak to a writer -- like Stephen King and myself, both of us wrote Ghosts, the short film Ghosts, and we just on the telephone started writing it and let it create itself and go where it wants to go.
僕はその曲に多くを語らせるんだ・・部屋で沢山原案を書きとめ・・ていうか、僕がライターに話すわけだけど。例えばスティーブン・キングと僕とで、ショート・フィルム「Ghosts」を共同で書いたんだけど、僕らはそれを電話で話し合いながら書き始めた。そしてそれ自体が(そのコンテンツが)おのずと好きな方向へ向かうにまかせたんだ。
彼は作曲も、自分は神から与えられすでに完成されているものを現実の曲という形に創りあげているだけだと語っていました。
彼が創造するものは、こねくりまわしたりひねくりまわすといった小細工など一切なしに、自分のインスピレーションと創造する対象から湧き出るイメージだけを中心に(もちろん実際に創りあげる過程ではさまざまなアイデアや技術を駆使しますが)大切にしていることがこの話からもよくわかりますね。
そうして創られた「Ghosts」
お話は、小さな町の町長率いる町の住人達が、ある風変わりだと噂されている薄気味悪い大きな館に住む主人に、町から出て行くように訴えに来るところから始まります。
主人であるマエストロ(音楽の巨匠の意)に対して町長は、「お前は変わり者だ。ここは普通の人が住む普通の町だ。変人はさっさとサーカスへ帰れ」と高圧的に詰め寄ります。
マエストロは「僕を脅す気?ならばゲームをしようじゃないか。一番最初に怖がった人が出て行くことにしよう」と、その館に住む大勢の幽霊と一緒に迫力ある群舞で応戦します。
町長以外の住人達や子供達は、そのダンスにどんどん楽しく引き込まれていくのですが・・
ここからはネタバレ満載、注意ですw
マエストロ(マイケル)を忌み嫌う大柄の太った白人町長もマイケル。
この町長は彼を93年の事件で有罪にするべく躍起になったトム・スネドン検事(もちろん2005年の裁判でも)を象徴しているとも言われていますが、そうであってもなくっても、自分の常識という基準から逸脱していると思うものや、自分とは違う価値観を持つものを受け入れることが出来ない傲慢さの象徴として存在しているのは確かでしょう。
そして自分が理解できないにもかかわらず住民(特に子供)を魅了してしまう何か特別な力を持つものを、嫉妬し恐れ忌み嫌い、そのあげく魔女狩りのごとく排除しようとする理不尽な考え。
そのような心こそが、、ghost of jealousy「嫉妬の亡霊=嫉妬から生み出される醜く愚かな感情」だと伝えているように思います。
嫉妬とは違いを受け入れられずに相手を怖れる気持ちが成長したもの。
そしてそれは次第に、その対象を排斥する一番の根拠となる感情にまで育ちます。
肌の色、国の違い、貧富、才能の有無、人を魅了する力の有無、何かを成し遂げたか否か。
あらゆる面であらゆる嫉妬が生まれていく。
マイケル自身数え切れないほどの嫉妬にさらされてきたはずですよね。
黒人アーティストとして世界中を魅了し、とてつもない成功を収めた彼に対する嫉妬。
白斑をきっかけに肌の色が変わったことで生まれた複雑な嫉妬。
美しい容貌に対する嫉妬。
世界が賞賛したその多岐にわたる才能に対する嫉妬。
知的な聡明さと無垢な純真さを併せ持つパーソナリティに対する嫉妬。
そして多くの人に支持されるということ自体、気に食わないという嫉妬。
これらに日々さらされてきた彼だからこそ、多くの争いの根源は、実は嫉妬の亡霊に取り付かれたことから起こる邪悪な醜い愚かな感情なのだというテーマを伝えるにふさわしい、極上のエンターテイメント作品に昇華させ完成させることができたのだと思うのです。

この時期は93年の疑惑を和解という形で解決したマイケルへの疑いがまだまだ強く、彼に対する逆風もますます吹き荒れている頃。
そんな中だからこそ、彼もあえて自分の心情を赤裸々に吐露した曲や前述のスネドン検事を痛烈に皮肉った曲をHIStoryに収録しています。
ただ意見はいろいろあるでしょうが、わたしにはそれらがただ彼が自分のおかれている状況を嘆いてばかりの作品群だとは思いませんし、このSFでもあえて世の中のくだらない噂をシニカルに風刺しているように思えて仕方ない表現があるのです。
それは終盤、住民達の心が次第にほどけていくのに対し、白人町長だけはかたくなに「ただ自分たちとは違う、変わっている」という理由だけに執着し、執拗にマエストロを攻撃し続けます。
町長の心を映す鏡に恐ろしいグール(悪鬼)が映り、マエストロは「Now who's wierd? Who's scary now? Who's the freak now? さぁ、気味の悪いのはいったい誰だ?怖いのは?本当の化け物はいったいどっちだ?」と問いかけます。
嫉妬によって理解できないものを理不尽に排除しようとするその心が、本当は恐ろしくて醜いGhostなのだと。
しかし町長はわかろうとせず、尚も執拗にマエストロを追い出そうとします。
町長の背後の住民達は、マエストロを受け入れる気持ちが芽生え、もはや彼を排斥しようとする気持ちはなくなっているのですが、大きな権力を持つ町長にはむかう勇気が出せずにいます。
悲しそうに失望したマエストロは「わかったよ。出て行こう」と言って、自らの顔面を床に打ち付けます。
何度も何度も床に顔を打ちつけ、みるみる崩れていく美しかったマエストロの顔。
それはまさに「顔面崩壊」でした。
マイケルに執拗に付きまとうゴシップのひとつ。
君たちは僕がこうなれば満足なんだろ?
そんな彼の皮肉が込められた自虐的な演出に思えるのです。
逆を言えば、ゴシップさえも作品のひとつの演出に、しかもとてもショッキングであればあるほど、マエストロの悲しみを効果的に表現できるという作品作りの上でのマイケルの冷静な計算を感じました。
この人は徹底して人を楽しませようとしているのだと。
それは不気味な館にひとりで住み(実際は多くの幽霊と一緒w)、不思議な現象を見せて一見怖がらせているようで、実は大人も子供も楽しませているマエストロを通して、ただただ最高の音楽とパフォーマンスと映像で世界中の人を楽しませ喜ばせたかった彼の信念を感じる演出にも見えるのでした。
マエストロが「最初に怖がった人が出て行くゲームをしよう」と提案し、「Is this scary? これ怖い?」と最初に見せる顔です。


子供の頃からの得意技のようですw
子供や住民にはウケますが、これに対する町長の反応はというと、「馬鹿馬鹿しい。子供だましだ!ふざけるのもいい加減にしろ!」というもの。
この子供のようなおふざけを好むことも、マイケルのパーソナリティのひとつでした。
子供が好むものを彼も好み、それらをとても楽しみ、それらをいつまでも愛した人でした。
いわゆる「常識的な大人」は、そのような彼を到底理解できない人が多かったでしょう。
それも彼はよくわかっていたのですね。
このシーンを観るといつも「Childhood」を思い出すのです。
やはりHIStoryに収録された曲。
子供時代を子供らしく過ごせなかった彼があこがれた子供らしい夢。
「Hello, I'm Michael」と自己紹介した途端態度を変えたりサインを求めたりなど決してしない友だちと、満天の星空を飛んだり、王様や海賊のおとぎ話の主人公になったり、キャッチボールをしたり。
No one understands me
They view it as such strange eccentricities...
'Cause I keep kidding around
Like a child, but pardon me...
誰も僕をわかってくれない。
彼らはそれを変な奇抜なこととしか見ないんだ。
だって、僕は子どものようにふざけるから。
でも、どうか許してほしい。
Before you judge me, try hard to love me,
Look within your heart then ask,
Have you seen my Childhood?
僕のことを決めつける前に、愛そうとしてみて。
君の心の中を覗いて聞いてみてよ、
僕の子ども時代を知っているのか?って。
People say I'm not okay
'Cause I love such elementary things...
It's been my fate to compensate,
for the Childhood
I've never known...
人は僕が変だと言う。
僕が子どもじみた物が好きだからって。
でもそれは、僕の運命の埋め合わせなんだ。
子ども時代を味わえなかった・・・
訳:大西恒樹氏「マイケルの遺した言葉/マイケル・ジャクソン氏の歌詞の日本語訳詞集」より引用
この歌詞で彼自身が、自分の子供じみた好みを人は変わっていると思っていることを書いています。
ただ、自分の中ではきちんとした理由があること。
それをわかろうとする前に判断しないで。
上っ面だけで決め付けて、変わっているという烙印を押したあげくに、排除するような真似はしないでほしい。
わたしの中ではいつもGhostsとChildhoodが、こんな風に対で出てくるのです。
もちろんこれはわたしの勝手な感想なので、そういう意見もあるのだなぐらいで流してくださいね。
冷静に最高のエンターテイメント作品を追求していくマイケルと、いつまでも自分の心の中に、どこかに落としてしまった子供らしい時代を探すマイケル。
大人の知性の中に息づく子供のような無垢な感性。

TwitterでシェアさせていただいたUSのBillboadのカバーになった絵です。
ノーマン・ロックウェル風で一目で気に入りました。
リーディンググラスをかけたスーツ姿の彼が、スリラーの頃の自分を描こうとしています。
落ち着きのあるとても上品な大人の男性。
でも、リーディンググラスの奥の茶目っ気いっぱいの目。
こんな素敵な紳士でありながら、彼がいつまでも持ち続けた無邪気さが隠し切れずにあふれているようです。
相容れないようで見事に溶け合った二つの魅力をもつ人・・
妖しくて気品に満ちているのに、無邪気な笑顔が素敵なマエストロに、大きな画面で会えるのはもうすぐです。
でもわたしたちの大切な大切な彼を失った日ももうすぐです。
この気持ちをどうすればいいのでしょう。
日々は容赦なく過ぎていきます。
これはわたし的には悲願のSFだったので、とても楽しみ。
Youtubeでも日本語字幕をつけてUPしてくださっている方がいて観る事はできていましたが、あのスリラーを大きく凌ぐ(とわたしは思っていて)、複雑で、かつそれまでのダンスムーブとは一線を画した独特な振り付けの群舞、俳優としてのマイケルの怪しげで神秘的なマエストロ役の演技、(特に彼の表情には息を呑む凄みさえあります)、そして一人5役という徹底したこだわりなど、見所が沢山ある映画です。
どうしてもこれを大きな画面で観たかったので、本当に嬉しい。
現在DVD化がされていませんし、VHSでは恐ろしい高値で取引されていますしね。
これが出たとき、たいした金額ではなかったのにすぐに手に入れずに暢気に構えていた自分をどれだけ呪ったことかw
このSFのアイデアは、当時「HISTORY IN THE MIX」と呼ばれ、後に「Blood On The Dance Floor」という変則的なリミックスアルバムに収録された「Is This Scary」、これがもともとは映画アダムス・ファミリー2のサウンドトラックになるはずだったのですが、契約問題で折り合いがつかずこのお話は流れてしまいました。
でもそれがきっかけとなって、「では自分たちでこれをモチーフにしたSFを創ろう」ということになって生まれたものでした。
「マイケル・ジャクソン全記録」の著者でもあるエイドリアン・グラントの「Adrian Grant's MAKING HIStory
」(HIStory発売に合わせて作られたマイケルのインタビュー本)で、マイケルがこのことについて語っています。
It started with the Addam's Family, they wanted a theme song (Is It Scary) for their films and I didn't want to do it. So eventually we got out of it. So I ended up making a short film. I love films, I love movies, and that's why my next mission is to make films. That's what I want the next chapter in my life to be - movies and records. There's no other place to go. I'll do films, do records and direct. I'll also do complete directing myself, 'cause I love it very much.
それは 「アダムス・ファミリー」から始まったんだ。
彼ら(パナマウント社)は、「アダムス・ファミリー」 のフィルムに "Is It Scary" をテーマソングしたがっていたんだ。でも、僕はそうしたくは無かった。だから結局、僕たちはそれを外した。 そして最終的にはショート・フィルムを創ることにしたんだよ。
僕はフィルムが大好きだし、映画も好きだし、だから僕の次の仕事はフィルムを創ることだね。 僕は人生の次の章では、映画やレコード創りがしたい。他に行く所は無いよ。
フィルムを創る・レコードを創る・指導する。僕は自分自身で全てを監督したものも創るつもりだよ。そうする事が大好きだからね。
参考サイト:Legend Of MOONWALK

この40分にわたる 堂々としたもはやミュージックビデオの枠を超えたSFでは「2 BAD」「GHOST」「IS IT SCARY」の3曲をフィーチャーし、エンターテイメントあふれる中に、実はとても重要なメッセージが込められています。
モダンホラーの巨匠、スティーヴン・キングとマイケルの共同脚本。
監督は、「ターミネーター2」「ジュラシック・パーク」などさまざまなSFX映画でアカデミー視覚効果賞を受賞している特殊メイクのこれまた巨匠であるスタン・ウィンストンでした。
このSFはカンヌ国際映画祭にも出品されました。

カンヌでのマイケル
日本でも96年のHIStory tourで来日した際、ファンと一緒に観たいというマイケルのたっての願いが実現し、200人の幸運なファンとの上映会に彼は出席しています。
同じ劇場内で一緒に映画を見ることができた幸せなファンの方には最高の思い出の映画となったのでしょうね。
マイケルは2001年のチャットインタビューで、スティーブン・キングとこの原案を一緒に作る過程の話をしてくれています。
Well, I let the song pretty much speak to me and I get in a room and I pretty much start making notes... You know, I'll speak to a writer -- like Stephen King and myself, both of us wrote Ghosts, the short film Ghosts, and we just on the telephone started writing it and let it create itself and go where it wants to go.
僕はその曲に多くを語らせるんだ・・部屋で沢山原案を書きとめ・・ていうか、僕がライターに話すわけだけど。例えばスティーブン・キングと僕とで、ショート・フィルム「Ghosts」を共同で書いたんだけど、僕らはそれを電話で話し合いながら書き始めた。そしてそれ自体が(そのコンテンツが)おのずと好きな方向へ向かうにまかせたんだ。
彼は作曲も、自分は神から与えられすでに完成されているものを現実の曲という形に創りあげているだけだと語っていました。
彼が創造するものは、こねくりまわしたりひねくりまわすといった小細工など一切なしに、自分のインスピレーションと創造する対象から湧き出るイメージだけを中心に(もちろん実際に創りあげる過程ではさまざまなアイデアや技術を駆使しますが)大切にしていることがこの話からもよくわかりますね。
そうして創られた「Ghosts」
お話は、小さな町の町長率いる町の住人達が、ある風変わりだと噂されている薄気味悪い大きな館に住む主人に、町から出て行くように訴えに来るところから始まります。
主人であるマエストロ(音楽の巨匠の意)に対して町長は、「お前は変わり者だ。ここは普通の人が住む普通の町だ。変人はさっさとサーカスへ帰れ」と高圧的に詰め寄ります。
マエストロは「僕を脅す気?ならばゲームをしようじゃないか。一番最初に怖がった人が出て行くことにしよう」と、その館に住む大勢の幽霊と一緒に迫力ある群舞で応戦します。
町長以外の住人達や子供達は、そのダンスにどんどん楽しく引き込まれていくのですが・・
ここからはネタバレ満載、注意ですw
マエストロ(マイケル)を忌み嫌う大柄の太った白人町長もマイケル。
この町長は彼を93年の事件で有罪にするべく躍起になったトム・スネドン検事(もちろん2005年の裁判でも)を象徴しているとも言われていますが、そうであってもなくっても、自分の常識という基準から逸脱していると思うものや、自分とは違う価値観を持つものを受け入れることが出来ない傲慢さの象徴として存在しているのは確かでしょう。
そして自分が理解できないにもかかわらず住民(特に子供)を魅了してしまう何か特別な力を持つものを、嫉妬し恐れ忌み嫌い、そのあげく魔女狩りのごとく排除しようとする理不尽な考え。
そのような心こそが、、ghost of jealousy「嫉妬の亡霊=嫉妬から生み出される醜く愚かな感情」だと伝えているように思います。
嫉妬とは違いを受け入れられずに相手を怖れる気持ちが成長したもの。
そしてそれは次第に、その対象を排斥する一番の根拠となる感情にまで育ちます。
肌の色、国の違い、貧富、才能の有無、人を魅了する力の有無、何かを成し遂げたか否か。
あらゆる面であらゆる嫉妬が生まれていく。
マイケル自身数え切れないほどの嫉妬にさらされてきたはずですよね。
黒人アーティストとして世界中を魅了し、とてつもない成功を収めた彼に対する嫉妬。
白斑をきっかけに肌の色が変わったことで生まれた複雑な嫉妬。
美しい容貌に対する嫉妬。
世界が賞賛したその多岐にわたる才能に対する嫉妬。
知的な聡明さと無垢な純真さを併せ持つパーソナリティに対する嫉妬。
そして多くの人に支持されるということ自体、気に食わないという嫉妬。
これらに日々さらされてきた彼だからこそ、多くの争いの根源は、実は嫉妬の亡霊に取り付かれたことから起こる邪悪な醜い愚かな感情なのだというテーマを伝えるにふさわしい、極上のエンターテイメント作品に昇華させ完成させることができたのだと思うのです。

この時期は93年の疑惑を和解という形で解決したマイケルへの疑いがまだまだ強く、彼に対する逆風もますます吹き荒れている頃。
そんな中だからこそ、彼もあえて自分の心情を赤裸々に吐露した曲や前述のスネドン検事を痛烈に皮肉った曲をHIStoryに収録しています。
ただ意見はいろいろあるでしょうが、わたしにはそれらがただ彼が自分のおかれている状況を嘆いてばかりの作品群だとは思いませんし、このSFでもあえて世の中のくだらない噂をシニカルに風刺しているように思えて仕方ない表現があるのです。
それは終盤、住民達の心が次第にほどけていくのに対し、白人町長だけはかたくなに「ただ自分たちとは違う、変わっている」という理由だけに執着し、執拗にマエストロを攻撃し続けます。
町長の心を映す鏡に恐ろしいグール(悪鬼)が映り、マエストロは「Now who's wierd? Who's scary now? Who's the freak now? さぁ、気味の悪いのはいったい誰だ?怖いのは?本当の化け物はいったいどっちだ?」と問いかけます。
嫉妬によって理解できないものを理不尽に排除しようとするその心が、本当は恐ろしくて醜いGhostなのだと。
しかし町長はわかろうとせず、尚も執拗にマエストロを追い出そうとします。
町長の背後の住民達は、マエストロを受け入れる気持ちが芽生え、もはや彼を排斥しようとする気持ちはなくなっているのですが、大きな権力を持つ町長にはむかう勇気が出せずにいます。
悲しそうに失望したマエストロは「わかったよ。出て行こう」と言って、自らの顔面を床に打ち付けます。
何度も何度も床に顔を打ちつけ、みるみる崩れていく美しかったマエストロの顔。
それはまさに「顔面崩壊」でした。
マイケルに執拗に付きまとうゴシップのひとつ。
君たちは僕がこうなれば満足なんだろ?
そんな彼の皮肉が込められた自虐的な演出に思えるのです。
逆を言えば、ゴシップさえも作品のひとつの演出に、しかもとてもショッキングであればあるほど、マエストロの悲しみを効果的に表現できるという作品作りの上でのマイケルの冷静な計算を感じました。
この人は徹底して人を楽しませようとしているのだと。
それは不気味な館にひとりで住み(実際は多くの幽霊と一緒w)、不思議な現象を見せて一見怖がらせているようで、実は大人も子供も楽しませているマエストロを通して、ただただ最高の音楽とパフォーマンスと映像で世界中の人を楽しませ喜ばせたかった彼の信念を感じる演出にも見えるのでした。
マエストロが「最初に怖がった人が出て行くゲームをしよう」と提案し、「Is this scary? これ怖い?」と最初に見せる顔です。


子供の頃からの得意技のようですw
子供や住民にはウケますが、これに対する町長の反応はというと、「馬鹿馬鹿しい。子供だましだ!ふざけるのもいい加減にしろ!」というもの。
この子供のようなおふざけを好むことも、マイケルのパーソナリティのひとつでした。
子供が好むものを彼も好み、それらをとても楽しみ、それらをいつまでも愛した人でした。
いわゆる「常識的な大人」は、そのような彼を到底理解できない人が多かったでしょう。
それも彼はよくわかっていたのですね。
このシーンを観るといつも「Childhood」を思い出すのです。
やはりHIStoryに収録された曲。
子供時代を子供らしく過ごせなかった彼があこがれた子供らしい夢。
「Hello, I'm Michael」と自己紹介した途端態度を変えたりサインを求めたりなど決してしない友だちと、満天の星空を飛んだり、王様や海賊のおとぎ話の主人公になったり、キャッチボールをしたり。
No one understands me
They view it as such strange eccentricities...
'Cause I keep kidding around
Like a child, but pardon me...
誰も僕をわかってくれない。
彼らはそれを変な奇抜なこととしか見ないんだ。
だって、僕は子どものようにふざけるから。
でも、どうか許してほしい。
Before you judge me, try hard to love me,
Look within your heart then ask,
Have you seen my Childhood?
僕のことを決めつける前に、愛そうとしてみて。
君の心の中を覗いて聞いてみてよ、
僕の子ども時代を知っているのか?って。
People say I'm not okay
'Cause I love such elementary things...
It's been my fate to compensate,
for the Childhood
I've never known...
人は僕が変だと言う。
僕が子どもじみた物が好きだからって。
でもそれは、僕の運命の埋め合わせなんだ。
子ども時代を味わえなかった・・・
訳:大西恒樹氏「マイケルの遺した言葉/マイケル・ジャクソン氏の歌詞の日本語訳詞集」より引用
この歌詞で彼自身が、自分の子供じみた好みを人は変わっていると思っていることを書いています。
ただ、自分の中ではきちんとした理由があること。
それをわかろうとする前に判断しないで。
上っ面だけで決め付けて、変わっているという烙印を押したあげくに、排除するような真似はしないでほしい。
わたしの中ではいつもGhostsとChildhoodが、こんな風に対で出てくるのです。
もちろんこれはわたしの勝手な感想なので、そういう意見もあるのだなぐらいで流してくださいね。
冷静に最高のエンターテイメント作品を追求していくマイケルと、いつまでも自分の心の中に、どこかに落としてしまった子供らしい時代を探すマイケル。
大人の知性の中に息づく子供のような無垢な感性。

TwitterでシェアさせていただいたUSのBillboadのカバーになった絵です。
ノーマン・ロックウェル風で一目で気に入りました。
リーディンググラスをかけたスーツ姿の彼が、スリラーの頃の自分を描こうとしています。
落ち着きのあるとても上品な大人の男性。
でも、リーディンググラスの奥の茶目っ気いっぱいの目。
こんな素敵な紳士でありながら、彼がいつまでも持ち続けた無邪気さが隠し切れずにあふれているようです。
相容れないようで見事に溶け合った二つの魅力をもつ人・・
妖しくて気品に満ちているのに、無邪気な笑顔が素敵なマエストロに、大きな画面で会えるのはもうすぐです。
でもわたしたちの大切な大切な彼を失った日ももうすぐです。
この気持ちをどうすればいいのでしょう。
日々は容赦なく過ぎていきます。